同窓会で不倫に走るという話がよくありますが、少しだけ変わった形の性愛を描いて
みました。学生時代には理解できなかったり伝わりきらない想いがありがちです。
20年の月日を経て、すれ違ったままの想いに決着がつくのかどうか。それぞれの忘
れ物とは何なのか。




青春の忘れ物       


「あっ、あっ・・・いいっ・・いいっ・・すご・・ああん・・・沖ちゃあん!」
「くっ・・・俺も・・・いい・・よ・・・凄く・・いいよ・・・神楽ちゃん!なんか
俺・・・夢・・・みたいだよ」
ラブホテルの一室で、40を越えた男女が絡み合っている。沖ちゃんと呼ばれた男は
40歳、既婚者である。神楽ちゃん、という変わった呼ばれ方をされた女は、神楽坂
が苗字である。同級生で独身だ。そんな2人が性愛を交わしている、つまりは不倫だ
った。激しく愛し合う2人の間には複雑な想いがあった。それぞれの想いによる忘れ
物を探しに愛し合うのだろうか・・・。


 数時間前・・・
 沖村は学生時代の同級生の結婚パーティーに来ていた。そこには各々すっかり親の
顔になってしまった仲間達が集まっていた。その中に、20年前とあまり変わらない
雰囲気を保ったままの神楽坂友子を見つけると、若き日々が蘇るような甘酸っぱさを
感じながら声をかけた。
「久しぶり・・・」
振り向いた友子は意外なほど明るい声で、「あぁ〜っいつ以来だっけ〜?」
と言いながら、椅子を回して正面を向いてくれた。
「元気そうだね」
「うん、何年か前の集まりには来れなかったでしょ。みんなに会うの、久しぶりだか
ら今日はすっごい楽しみだったんだあ」
ニコニコしながらそう話す友子だったが、(違う・・・これは・・・無理してるな)
敏感に悟った沖村だった。大学に入ってすぐの頃、2人はごく短い間付き合っていた
。いや、もしかしたら友子の中では違う認識だったかもしれない。いずれにせよその
後も沖村は友子を引きずり続けた。何年も経ってのちに結婚することになる仲間と付
き合い始めても、心の隅には友子が居座り続けていたのだ。
「そっか・・・皆なかなか会えなくなってきたもんね」
「そう、私と違ってみんな家庭がね」
そう言ってわいわいやっている仲間達に視線をやる横顔はどこか淋しそうだった。
何を言おうかと横顔を見つめながら考えていると、他の連中が押し寄せてきて、話は
それ以上できなかった。

2時間半ほどのパーティーが終わると、皆意外なほどあっさりと引き上げていった。
「みんな、帰っちゃったね・・・」
呟く友子はやはり淋しそうだ。
「そうだね・・・もう若くないしってね」
「そうだね・・・もう若くないのに私はまだ『かぐらちゃん』のまま・・・」
「神楽ちゃん・・・」
ジンライムのグラスをゆっくりと左右に傾けるクセは昔のままだ。それが余計に切な
くさせた。
(まさか未だに独りだったとはなあ・・)
何を話そうか、まだ帰らなくても大丈夫なのか・・・あれこれ考えていると
「沖ちゃん、そのクセ変わらないね」
そう言われて友子を見ると、儚げな笑顔を見せている。
「ほら、指先でグラスを押さえながら中指でトントンしてる」
言われて初めて知ったような気がした。
「ねえ沖ちゃん、今幸せ・・・よね?」
何も言えないで力なく笑うだけの沖村に、唐突に聞いてきた。
「え、ええっ?」
驚いて顔を見る沖村だが、友子はグラスを見つめたままだった。
「幸せに決まってるよね、奥さんに愛されて、可愛い子供達がいて・・・そんな話を
みんなでしてる顔、すごく楽しそうだったもん」
「まあ、そ、そうかなあ・・・」
「いいなあ、私、結局あれからあんなに愛されたことないもん・・・ね?」
ため息混じりに言ったかと思うと、不意に肩を寄せて顔を覗いてきた。
「あ、あれから・・・って?」
焦る沖村を面白がるように見上げる友子。
「学生時代、沖ちゃんってずっと私のこと好きでいてくれたでしょう?」
実際そうであった。一度は再アタックを試みたこともあったし、なんでもない用で電
話をした時も話が途切れないように必死だった。そんな日々が脳裏のスクリーンに次
々と浮かぶ。
「あんなに人に愛されることがどれだけ幸せかなんて、解らなかったのよあの頃は」
「神楽ちゃん・・・」
卒業後はほとんど交流もなく過ごしてきた。その間友子がどんな暮らしをしていたの
か、さすがに考えたことはなかった。
「どうしたの?何かあったのかい?」
さすがに心配になってきて尋ねたが、黙って首を振るばかりの友子。
「それでね、本当に大人になってきて、それなりに恋愛だってあったんだけど、いつ
も私、どこか醒めてたのね。それってどうしてだか解る?沖ちゃん」
「いや・・・ごめん、ちょっと・・・」
少し淋しそうに笑みを浮かべた友子は、また視線を落とすと、呟くように続けた。
「だって・・・沖ちゃんほどにはみんな熱くなかった・・・私、いつも沖ちゃんと比
べてた・・・」
そんな言葉に高いスツールから落ちそうになる沖村。友子はそのまま動かずにいる。
「あ、あ〜えっと・・・」
沖村は混乱するばかりになってきた。
「気が付いたらもう私達、40だもんね。40にもなってやっと解ったみたい・・・
本当に自分を幸せにしてくれるのがどんな人かって・・・」
様子が変わった事に気付き、友子を見ると俯いた瞳から涙が溢れているのが見えた。
「神楽ちゃん・・・」
「今頃・・・今頃だよ・・・あんなに愛されてたのに・・・解らなかった・・・馬鹿
だった・・・あんなに・・・今・・・頃・・・わたし・・・わたしぃ・・・」
スカートの膝あたりをギュッと握り締めて
肩を震わせている友子。
「そんな・・・神楽ちゃ・・・」
どうしたものかと肩に手を触れた途端、友子が抱きついてきた。
「沖ちゃん!私、私・・・」
全く思っていもいなかった展開に凍りつく沖村。学生時代の思い出が浮かんでは消え
ていく。だが一方で、よく解らないけれど何かがパチン、パチンと弾けるのも感じて
いた。

 2人は店を出て、川沿いの歓楽街を歩いていた。
(気分を変えようかなんて言って出てきたのはいいけど、さてどうしよう)
決めかねながら歩くうちに、学生時代によく騒いだ河原に出てきた。
「あ、ほらここ・・・懐かしいね」
「・・・ああ・・・ここ・・・」
4年間で何度もここで騒いだものだった。
なんとなく並んで座る2人。
「沖ちゃん、帰らなくてもいいの?」
膝をギュッと抱えて座る友子が聞いてくる。
「え?ああ、今日は大丈夫さ。許しをもらって出てきたからね。そっちこそ大丈夫な
のかい?」
そう言われた友子は自嘲気味に笑うと、
「独り身の40女だもん、なんてことないわよ」
と、夜空を見上げながら答えた。沖村は少しムッとしながら
「そんな言い方すんなって」
といい諭すように肩に手をかけた。すると友子がそれを待っていたかのように、沖村
の肩にもたれてきた。
「えへ、怒られちゃった・・・まだ私の事、心配してくれるんだ・・・嬉しい」
友子の柔らかな髪が風になびき、さわさわと頬を撫でた。
「あ、当たり前だよ。いくつになったって俺の青春そのものなんだから」
「私が?今でも?」
がばっと身を起こして地面に手を付き、四つんばいの姿勢で顔を寄せてくる。沖村は
つい、覗かせた友子の胸元に視線をやってしまった。
(あ・・・今でも綺麗だな・・・)
「沖ちゃ〜ん、どこ見てんのぉ?」
楽しそうな友子の声に我に返った。
「いや、ごめんごめんつい・・・」
そう言いながら、開いた胸元を隠そうとはしない友子。にじり寄る友子に、後ろに手
をついて仰け反る沖村。黙って見つめ合っている。
「ふふふ、ね、沖ちゃんってさあ・・・」
言いながら肩に手を乗せてくる友子。
「やっぱり私のこと、抱きたかった?」
首を傾げながら聞いてくる仕草に、沖村の目には当時の友子の面影が見えてくるよう
な気になってきた。
(やっぱ可愛いよ・・・やばいなあ・・)
「ん?どうだったの?」
答えを迫る友子。当時の沖村はまだ童貞で結局勇気を持てなかったのだ。そんな事を
思い出していた沖村は、素直に答えた。
「そりゃそうさ。でも色々余計な事考えてできなかったよ。第一、俺が迫ってたって
断っただろ?」
聞き返された友子は、俯いて黙っている。そして顔を上げて答えた。
「そうね、そうだったかもしれない・・・あの頃だったら私も処女だったし・・・」
なにやら変な空気になってきたぞと感じている沖村。
「でも沖ちゃん、今なら私・・・」
何か決心したように下唇を噛んでいる友子。潤んだ瞳で真っ直ぐに沖村を見つめる。
「よせよ。神楽ちゃん、今日はホントおかしいぞ?何をヤケになってんだよ」
そんな言葉とは裏腹に、沖村自身が頭をもたげ始めていた。
(抱ける・・・?俺が・・・神楽ちゃんを・・・?)
「そんな風に言わないで。ヤケなんかじゃないわよ、子供じゃないんだから」
泣き笑いの表情を浮かべる友子。
「なんだろ・・・青春にピリオド・・・っていうのか・・・うまく言えないんだけど
・・・一つ言えるのは、ほんっとうに私を愛してくれた人を刻み付けたい、って想い
かな」
「俺は・・・」
様々な思いがぐるぐると脳裏を駆け巡り、眩暈さえ覚える沖村。
「それに沖ちゃんならあの頃でも、今でもいやらしい欲望だけじゃなく愛してくれそ
うだし」
「そ、そうなの?」
「うん・・・でも私自身、沖ちゃんが思ってるよりエッチだと思うよ、ごめんね」
もうどうなっているのか解らなくなってきていた。そうだ、これは卒業式なのかも知
れない。そんな風に思えてきた。お互い今年で40歳。ある意味それぞれが心の隅で
止めていた時間を、動かす時が来たのだ。
「神楽ちゃん・・・」
沖村は友子の両手を握り締めた。
「沖ちゃん・・・私・・・」
「行こう、神楽ちゃん」
友子を立たせた沖村は、肩をぐいっと抱き寄せて歩き始めた。ホテルに着くまでの間
友子は照れ隠しをするように饒舌だった。
当時の思い出を次々に話した。そんな友子の様子に沖村も妙な緊張が解けたような気
がして助けられた思いだった。そして玄関まで来ると、躊躇せずに一気に入っていっ
た。月が柔らかい光を落としていた。

「キャハハ、来ちゃった。それも沖ちゃんとだって。みんなが知ったらビックリする
よね、絶対」
ホテルの一室に入り、必要以上にテンションを上げている友子。そんな友子をソファ
から見つめている沖村。勢いで入ったものの本当にいいのかと思っていた。
「なあ・・・俺・・・正直言って神楽ちゃんの事、ずっと好きで・・・でも結婚はし
てて・・・でも今、抱けるなら抱きたいって思うし・・・」
立ち上がって言い出した沖村の方を振り向
いて、友子が答える。
「そうよ、抱いていいの。今だから。」
「今・・・だから・・・?」
立ち尽くす沖村にゆっくりと近付く友子。
その指はブラウスのボタンを一つずつ外しにかかっている。
「そう・・・もう余計なこと考えないで、沖ちゃん。いいじゃない・・・20年前に
戻るのよ、2人して」
ブラウスを脱ぎ捨て、スカートもストンと落とした友子が沖村の腰に手を回した。
「沖ちゃん・・・私をもう一度愛して」
そう囁くと唇を重ねていく友子。
「んん・・・んふう・・・」
すぐに2人の舌が熱く絡み合い始めた。
40歳の男女とは思えない、激情に任せたようなキスだった。長く交わした後、よう
やく一旦離れ、沖村がせわしなく服を脱ぎ捨てていく。
お互い下着姿になると、沖村は友子をいきなり抱え上げた。
「キャッ・・凄い、お姫様抱っこなんて・・・」
何故か涙ぐんでいる友子に、不思議そうな顔で聞く。
「な、なんだよ、嫌だった?」
「ううん・・・嬉しいの・・この歳でまさかしてもらえるなんて思わなかったから」
「なんだ・・・ったく、いちいち歳のことを言うなって」
そう言いながらベッドに横たえると、軽く口づけた。
「だって・・・」
照れ笑いを浮かべる友子に、沖村は続けた。
「今の俺はあの当時、18歳の気分なんだから」
「沖ちゃん・・・ああ、本当に私・・・」
「ん?どうした?」
友子はやっぱり後悔していた。今こうしていることではなく、あの当時沖村の想いに
応えなかったことを、である。でももう言うまいと決めた友子は、腕を回して沖村を
抱き寄せていった。

「んあああっ、いいっ・・・いいの・・」
2人が抱き合い始めてから1時間が経っていた。様々な思いに高ぶった沖村は、程よ
く熟した友子の身体中を愛し続けていた。
互いの素肌が触れ合うたびに、20年分の想いが2人の身体を行き来するようだった

「沖・・・ちゃん・・・私・・・もう・・ダメ・・・おかしく・・・」
「いいんだよっ、おかしくなってしまうんだよっ・・・ほらっ、ほらあっ」
もう何度も絶頂を迎えていたが、今は沖村の顔に跨った友子が首を反らして喘いでい
る。あまりの快感に口から離れようとする友子だったが、沖村の両手がガッチリと押
さえつけているので逃れることはできない。たちまち登り詰める友子。目から涙が溢
れている。
「ああああっ!もうダメ!ダメダメダメ・・・・」
力を溜め込むように身体をかがめる友子。
「・・・・ク・・・」
口はイクと動いているが、声にならないまま、友子が達した。弾みで溢れかえった蜜
壷が思い切り押し付けられ、愛液が押し寄せて来る。沖村は一滴も漏らすまいと吸い
上げる。
「はああああ・・・凄いぃ・・・」
余韻に浸り、ビクン、ビクンと全身を震わせる友子をそっと横たえてやる沖村。
「またイッちゃった?凄いね・・・」
髪を撫でられる心地良い感触に目を開ける友子。沖村が優しい表情で見つめている。
「恥ずかしい・・・沖ちゃん、凄いんだね
・・・奥さんもこんな・・」
うらやましい、と言おうとした唇を沖村がキスで塞いだ。
「だからぁ、今は18歳の気分なんだってば」
「そっか・・・でも18歳の沖ちゃん、こんなに凄かったのかしら?」
「ははは、そりゃ違うだろうけどね」
そう言って再びキスを交わす。
「んはあ・・・ねえ、私もう・・・沖ちゃんの、欲しい・・・沖ちゃんを私に刻み込
んで・・・」
躊躇わずに、真っ直ぐに想いを伝える友子
に胸が熱くなる沖村。
「神楽ちゃん・・・いいんだね?」
友子は無言で頷いた。
(いよいよ一つに・・・)
万感の想いが湧き上がる。これで止まっていた時計が動き出すのだろうか。それは沖
村には解らなかったが、相当な気持ちでここまで来たであろう友子に応えるためには
進むしかない。
「・・・いい・・ね・・?」
ゆっくりと硬直が沈んでいく。
「あっ、あっ・・あはあああ・・・・すご・・い・・・沖・・ちゃんが・・・」
友子にとって、かなり久しぶりのセックスであり、沖村の硬直は想像以上のモノだっ
た。そんな硬直が出入りするたびに強い快感が全身に走った。
「んあっ、んんああっ、凄い・・・凄いわ沖ちゃあん・・・いい、いいわぁ・・・」
そして何より、ずっとずっと愛してくれていた男とようやく結ばれたという気持ちの
高ぶりもまた想像以上だった。おそらく二度とないであろうこの瞬間を刻み込もうと
、あえて目を開いている友子は、自分を貫いている沖村の顔を見て驚いた。
(沖ちゃん、涙が・・・)
その表情に、友子の目にも見る見るうちに涙が溢れていた。
「はああっ、かぐら・・・ちゃん・・俺、もうワケわかんないよ・・・気持ち良くて
・・・嬉しくて・・・でも少しだけ切なくて・・・くっ・・・あっ・・・」
ピッタリと密着するように抱き合った姿勢で語りかける沖村。友子の身体と心にも、
様々な感情が舞っていた。
「沖ちゃん、沖ちゃん・・・もっと、もっと強く抱きしめてぇっ!」
「神楽ちゃん!凄いよっ!」
沖村は余裕も何もなく、ガシガシと腰を振りたてていた。
「はああああっ・・・ああああん、ああああん・・・凄いの・・・凄いのぉっ!」
友子が駆け上がるにつれて、膣内が締まっていく。
「はあっ、はあっ・・・俺・・もうダメだ・・・ダメだよ・・・・」
切ない顔を見せる沖村の頬に手を添えた友子が優しく告げてやる。
「沖ちゃん・・・いいのよ・・・来て・・そのままで・・・」
そう言うと友子は両脚をしっかりと絡めて沖村の腰を固定した。
「ええっ?ダメだよ・・・外に・・・」
「いいの・・・このまま・・・このまま私に刻み付けてほしいの!」
(沖ちゃん・・・私を一番愛してくれた人・・・私にとっても青春だったのね・・)
「神楽ちゃん・・・うつ・・くくっ・・・わ、解ったよ・・・」
踏ん切りがついたように激しく腰を振る沖村。ラストスパートに杯入った。
「んああああっ!沖ちゃん!いい・・いいよおっ!・・もう・・イク、イクイクイク
イク・・・・」
「ぐあああああっ!」
「イックウウウウウッ!」
綺麗に絶叫がシンクロした。
ドビュッ、ドビュッ、ドビュウウッ!
「はあああ・・・沖ちゃんが・・・」
細かな痙攣をしなから、友子は目を見開いている。子宮を叩く沖村の迸りを感じてい
るのだろう。
(あああ・・・凄い・・こんなに熱いんだ・・・沖ちゃん・・・これは沖ちゃんの、
20年分の想い・・・)
沖村も友子の中に直に注ぎ込んだことに、言いようのない興奮に包まれていた。
(あああ・・神楽ちゃんの中に・・・あんなにあんなに愛していた・・・)
あまりの感動と気持ちよさからか、いつまでも終わらないのではないかと思うほど、
繰り返し脈動を続けていた。
「・・・っくうっ・・・はあああ・・・」
最後の放出を終えると、一気に脱力してしまった。何かの機械音だけが妙に大きく聞
こえる部屋に、2人の荒い息遣いがやたらと響いていた。


 ようやく落ち着いてきた2人。照れくさいのか、顔を合わせられなかった。
「ねえ・・沖ちゃん・・」
友子が天井を向いたまま切り出す。
「ん?なに?」
友子の首の下から腕を通し、ゆっくりと髪を撫でている沖村。
「今・・・何考えてる?」
「う〜ん・・・まだ何も考えられない」
「そう・・・」
「神楽ちゃんは?」
「まだ何も考えられない」
少しわざとらしかった口調に、顔を横に向ける沖村。含み笑いをしながらこっちを見
ている友子と目が合った。
「フフフ・・・」
沖村は声を出さずに表情だけで笑った。
「沖ちゃん・・・」
友子は身体を動かすと、顔を胸板に乗せてきた。
「ありがとう・・・沖ちゃん・・・」
友子の白い背中を抱きながら、沖村は
「ありがとうってのはおかしいんじゃないのかなあ・・・ほら。神楽ちゃんも言って
ただろ、青春のピリオドだって・・・」
「そう・・・だったね・・・」
沖村の鎖骨に指を滑らせながら呟く友子。
「青春の忘れ物を手にしたって気がしてさあ・・・凄く感動してるよ・・・」
ちょっとクサいけど、そう言い足して照れ笑いする沖村に、友子も柔らかく笑った。

(これで・・・良かった・・・かな?・・うん・・・大丈夫そうだな)
どうしても後ろめたさがあったが、少し安心した沖村だった。そんな沖村の安心とは
裏腹に友子の心は揺らいだままだった。
(沖ちゃん・・・ごめんね・・・私、やっぱり切ないの・・・でもこれ以上、沖ちゃ
んを振り回さないようにするから・・)
そう決心した友子は、グッと力を込めて身体を起こした。
「さあ、沖ちゃん、卒業式も終わったことだし、シャワー浴びたらもう一度、ね?」
妖しい雰囲気を作りながら語りかけ、沖村の額にキスをした。
「ええ?神楽ちゃん?」
「いいじゃない・・・言ったでしょ、私って案外エッチかもよって」
沖村もその気になったように笑顔を浮かべている。
「ウフフ、先に行ってるわよう・・・」
身を翻して浴室に向かう友子。
(明るく、いやらしいセックスで終わらなきゃ・・・切ないままじゃ耐えられないも
の・・・これでいいのよ)
俯いて唇を噛み締めた悲しい友子の表情はベッドに座ったままの沖村からは見えはし
なかった。




●筆者コメント
はじめまして。
いつも楽しみに拝見しております。
読むばかりでなく、自分も表現したくなりました。
目の肥えた皆様に批評していただければ幸いです。
愛情溢れる性愛に徹したい。性愛は女のためのもの。
これをポリシーとしています。でも優しく誘惑される
パターンも好きだったりします。